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ピアノ教室

  • 執筆者の写真: 凜 志水
    凜 志水
  • 2024年10月15日
  • 読了時間: 3分


ピアノを習っていた。

8歳から12歳までの4年間、車で送ってもらって20分ほどの距離にあるピアノ教室。

明るくて綺麗で優しい先生だった。先生はもともと幼稚園の先生をしていたので、小学生が喜ぶゲームやイベントをたくさん考えてくれた。



たとえば、教室には先生お手製のすごろくがあった。

宿題になっていた楽典ドリルや練習曲に合格がもらえると一コマ進めることができ、ゴールするとファンシー文具の詰め合わせがもらえるというゲームだ。

かわいい文房具が大好きだった私は、お目当ての詰め合わせ(それはカゴにいくつか入っていて、好きなものを選べる)のために真面目に宿題に取り組んでいた。



生徒数もそれなりに多かったので、ホールを借りての発表会もあった。

ピアノコンクールを目指すというような方針ではなく、あくまでも教室の催しという感じだったのだが、私はどうもこの発表会が苦手だった。

発表会ではピアノ演奏の前に生徒たちがダンスを踊るステージがあり、先生が考えたダンスをみんなで披露するのだ。

もちろん全員は参加しなくていいのだが、年齢的にメンバーに選ばれてしまい、断り方もわからないのでダンスを練習した。

みんなでお揃いの衣装を着て、大塚愛の『SMILY』に合わせて踊る。

大人はみんな喜んでいた。先生も親御さんたちも、かわいい、かわいいといって褒めてくれる。一緒に踊った子たちも、キャッキャして楽しそう。

ぶっちゃけ、私はそのピンク×黒のワンピースの衣装が全然好きではなかった。

一刻でも早く脱ぎたかったが、催し特有の盛り上がる雰囲気を突破する力はない。

みんなは楽しそうなのに、自分は全く楽しくない、というギャップに、じわじわと苦い気持ちが湧き上がってくる。

心は泣いても、お顔はスマイリー。笑って、笑って...





中学にあがるタイミングで、教室を辞めることにした。

最後の教室の日、自分の口から教室を辞めることを先生に告げた。

中学での部活が忙しくなるので、という理由だけでサラッと済ませればよかったのに、

私はつい、発表会が嫌なので...と言ってしまった。

ピアノを弾くことや先生のことが好きで、これまでお世話になったことを考えると辞めることが申し訳なくて、でも発表会の憂鬱が大きくて、頭の中はぐちゃぐちゃ。

ごめんなさい、ごめんなさい...せっかく先生が考えてくれた発表会をどうしても好きになれなくて、ごめんなさい...。

教室の玄関先で泣きじゃくる私を見て、先生も「そっか...」と言いながら泣いていた。





その後も何かとピアノを弾く機会があり、今このブログを書いている机の横にも、88鍵の電子ピアノが置いてある。

教室に通っていた4年間は、確実に私の音楽経験の基盤となっている、大切な期間だ。

でも、いまでも時々考える。

きっと私は先生を傷つけてしまったこと。一方で、その時の自分は表面的な理由でもって笑顔で教室を去るような器用なコミュニケーションスキルは持ち合わせていなかったこと。

そして大人になった今でも、やっぱりあの発表会は苦手であるということ。



 
 
 

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